大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(あ)1105号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人ら四名の弁護人石川元也ほ八二名連名の上告趣意第一点の一ならびに二は、いずれも憲法二一条違反をいうのであるが、その内容とするところは、要するに、本件吹田操車場構内における被告人らの行動は正当な集団示威行動とみるべきものであるから、これについて原判決が威力業務妨害罪の成立を認めたのは不当であると主張するものであつて、実質において事実誤認、単なる法令の解釈、適用の誤りをいうに帰するものであり、適法な上告理由にあたらない。なお、原判決が、被告人らの右行動につき威力業務妨害罪の成立を認めたのは相当である。

前同上告趣意第二点は、刑法二三四条にいう「威力」の概念が甚だ不明確であることを前提として、原判決の憲法三一条違反をいうのである。しかしながら、右法条にいう「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力をいうものと解すべきであつて(当裁判所昭和二八年一月三〇日第二小法廷判決・刑集七巻一号一二八頁、同昭和三二年二月二一日第一小法廷判決・刑集一一巻二号八七七頁各参照。)、その概念が不明確であるとはいえないから、所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

前同上告趣意第三点は、憲法違反ならびに判断違反を主張する。しかしながら、憲法違反をいう点の内容とするところは、原審のとつた破棄自判の措置が刑訴法四〇〇条但書に違反するというものであつて、結局実質は単なる訴訟法違反の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない。次に、判例違反をいう点についてみると、所論引用の当裁判所昭和三一年七月一八日大法廷判決は、控訴審がなんらの事実調をもしないで破棄自判をしたという事案についてのものであり、また、当裁判所昭和三四年五月二二日第二小法廷判決は、事件の核心をなす事項についてなんら事実調をしないまま控訴審が破棄自判をしたという事案についてのものであるところ、本件においては、所論のような控訴審において検証ないし証人尋問がなされているのであつて、本件威力業務妨害の起訴事実については事件の核心をなす事項に関する事実調がなされているものというべきであるから、所論引用の判例はいずれも事案を異にし本件に適切な判例にあたらない。従つて、判例違反をいう点も、適法な上告理由にあたらない。

前同上告趣意第四点は、事実誤認の主張であり、同第五点は、単なる法令の解釈、適用の誤りをいうものであつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。

被告人任鉄根の弁護人石川元也ほか三名連名の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(下田武三 岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一)

上告趣意〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例